お米ができるまでの一年の流れと作業内容をまとめています。
うちで行っている、水稲の機械移植栽培による方法です。
栽培の概要
種籾(たねもみ)から収穫まで1年がかりとなるお米作り。
お米の品種には、米飯に利用される「うるち米」、粘りが強くお餅や菓子類に利用される「もち米」、清酒の醸造に利用する「酒米」があります。
日本では水田で栽培される「水稲」が主流ですが、畑や陸田などで栽培される「陸稲」もあります。
また、「直播き栽培」と「移植栽培」がありますが、ほとんどは「移植栽培」で行われています。
ここで紹介するのは「うるち米」の「水稲栽培」で、一般的に行われている農機を活用した「機械移植栽培」の方法です。
栽培カレンダー
水稲栽培の作業スケジュールは次のようになります。
動画で流れを見る
お米作りの1年の流れをざっと動画にまとめています。
田んぼの準備・苗づくり
田んぼの準備、苗づくりは、田植え時期に合わせて並行で進めていきます。
田んぼの準備
本田の準備は稲刈り後の秋耕から始まり、次のような流れになります。
耕起(秋耕、春耕) → 畦塗り → 施肥(基肥) → 入水 → 代掻き
耕起(田起こし)
稲わらなどの有機物をすき込むことで堆肥施用同様の効果を生み、収穫後の地力低下を防ぎます。
秋耕
稲刈りの後、秋から冬にかけて稲わらをすき込みます。腐熟促進剤を施用すると稲ワラの分解がスムーズに進みます。
春耕
そして春の気温が上がり始めた頃、出芽した雑草をすき込むと共に、残渣を分解させるために耕します。
秋耕・春耕のタイミングで、土壌改良資材など必要に応じて施用します。
畦塗り
水田に貯める水が外に漏れないように、水田の境に泥土を塗ります。(または写真2枚目のように畦畔シートを設置します。)
土と水をこね混ぜておき、少し固まりかけてきたら、くわで畔の内側に塗りつけていきます。手作業では大変なので、畦塗り機を使用するのが一般的です。
施肥(基肥)
田植え作業の前に、初期生育の促進を目的に行う施肥(基肥)。
窒素・リン酸・カリウムが肥料の3要素といわれますが、加えて稲の場合はケイ素も重要な成分です。ケイ素には、葉を丈夫にし、病原菌や害虫の侵入を防ぐ働きがあります。(施肥量については、品種や地域毎に施肥基準が設けられています。)
入水
代掻きを行うために田に水を入れます。
地域によってパイプラインが整備されていたり、農業用水路から水を引きます。
代掻き作業が行いやすいように、あまり水を入れすぎず、田全面がかるく浸かる程度にします。
代掻き
水を張った田面をロータリで攪拌します。
砕土と均平を兼ねた作業として1〜2回行います。
- 植え付けしやすいように、土を柔らかくする
- 土の表面を平らにして、水の深さを均等にする
- 雑草の発生を抑える
- 水もちを良くする
補足:水田の土層について
水田の底の土は、上から作土、すき床の二層からなります。
作土は稲が根を張る部分(耕される部分)で、柔らかく有機物や肥料分が多く、18〜20cmほどの厚さが一般的。
すき床(鋤床)は土を踏み固めた層で、漏水を防ぐと共に、人や農機具が土の中に潜り込まないようにします。(水もちの良し悪しに関係します。)
水田の水は、稲に吸収されたり、蒸発したり、地下へしみ込んだりして徐々に減っていきます。1日当たりの水の減り方(減水深)は15〜20mmくらいが良いとされています。(水持ちが悪いと養分や肥料が流れてしまい、水はけが悪いと根を痛めてしまいます。)
- 養分や水分を供給する
- 雑草の発生を抑える
- 肥料の効果を調節する
- 水の保温力で稲を寒さから守る
苗づくり
種籾準備
稲の種はもみ殻に包まれており、種籾(たねもみ)と呼びます。
良い種籾を選んで発芽しやすくするために、種まき前に「選種 → 消毒 → 浸種 → 催芽」を行います。(この一連の工程を予措(よそ)と呼びます。)
1.選種
良質の種籾を選別します。
一般的に「塩水選」と呼ばれる方法で行われ、うるち米で比重1.13、もち米で1.08に調整された塩水に種籾を入れ、良くかき混ぜて落ち着かせます。その後、軽くて浮いたもみを取り除き、下に沈んだもみを種まきに使います。
沈んだ種籾は胚や胚乳が充実しており、良好な発芽や初期育成が期待できます。(水洗いして陰干ししてから使います。)
2.消毒
種籾には病原菌がついているおそれがあるため、薬剤液に1日〜2日浸けて消毒します。
消毒後は数時間陰干しした後、水洗いせずに浸種します。
3.浸種
発芽を早めて揃えることが目的で、種籾を水に浸け、十分に水を吸水させます。(乾いた籾の重さの25%以上)
水温は10度〜15度で、日数は「水温×日数=100」を目安とします。
4.催芽(芽出し)
発芽を揃えるために、浸種後の種籾を幼芽と幼根がわずかに発生した「はと胸状態」にします。
浸種の済んだ種籾を30度〜32度のぬるま湯に1日漬けます。
すると、胚の部分から幼芽と幼根がわずかに発生した「はと胸状態」となり、発芽が揃うようになります。
苗代の準備
稲の苗を育てるための「苗代(なわしろ)」を準備しておきます。
苗代にはいろいろな形がありますが、ここで紹介するものは「水苗代」です。
入水・排水の便利な場所を選び、育苗箱を並べるだけのサイズを確保して周りに溝を掘り、苗代をたてます。
育苗箱と苗代がしっかり密着するよう、また水位が均一になるよう、苗代は均平にすることが大切です。
播種
育苗箱の底に新聞紙を敷き、その上に床土を詰め、ならし板を使って厚さ2cmで平らにします。
床土を詰め終えたら、表面に水がたまる程度にかん水します。
1箱分の種籾を図り取り、全体にムラなく撒きます。
撒き終わったら水をやり、5mmほどの厚さに覆土します。(覆土後に水はやりません。)
播種の終わった育苗箱を苗代に並べます。
育苗箱と苗代がしっかり密着するようしっかり押し付けておきます。
苗代用のトンネルを掛けて、隙間が開かないように泥でしっかり固定。
入水して、床面が浸かる程度の水位にします。
育苗管理
「出芽 → 緑化 → 硬化」の工程を通して育苗管理します。
緑化
出芽した苗を日光や気温に慣らす工程。トンネルを密封(暗条件)して出芽させ、出揃ったら弱い光に2〜3日当てます。この時の温度は昼間25℃程度、夜間10℃以上を目安に、トンネル内で1週間ほど管理します。
硬化
緑化直後の苗を、低温に慣らす工程。トンネル内で徐々に自然環境に慣らしながら管理します。(田植えの1週間ほど前になったらトンネルを外します。)
育苗中は、適切な温度管理・水管理がポイント。溝の水は床面より下(床面に掛かるか掛からないか程度)に保ち、冠水しないよう注意します。
種まきから約1ヶ月後には、根が絡み合って苗はマット状になり、植え付けに適した状態になります。
田植え・管理
田植え
育苗した苗を、代掻き後の水田に移植します。
苗の種類や品種の特性、作業性を考慮して植付密度を決めます。(田植え機では、植付密度(株間・条間)、深さを調節できるようになっています。)
平均的には1坪あたり50〜70株、植え付けの深さは3cm前後にします。浅すぎると浮き苗が増え、深すぎると分げつ数が少なくなって収量が減ってしまいます。
管理
苗の活着後、次々に分げつを出し茎数を増やしていきます。そして幼穂が形成される頃になると分げつの発生が止まり、茎が伸び始めます。
田植え後の水田では、収穫まで次の管理作業があります。
水管理
稲の生育に合わせ、田に水を入れたり引いたり、深さを調整します。
植え付け直後から活着するまでは、苗が水没しない5〜7cm程度の水深にして、水の保温効果により苗を保護します。(深水管理)
苗の活着後から分げつ期は、2〜4cm程度の水深にして、地温を上昇させることで分げつの発生を促します。(浅水管理)
最高分げつ期の頃になったら、田から水を抜き、土表面に亀裂が出るまで7〜10日間ほど干します。これを「中干し」と呼び、次の効果があります。
- 土の中に酸素を供給し、根を健全にする
- 無効分げつの発生を抑える
- 土中の有害物質の生成を抑える
中干し後は、湛水と落水を数日ごとに繰り返す「間断かんがい」を行います。水分の供給と酸素の供給を交互に行い根を健全に生育させます。
出穂・開花期は、開花、受粉、受精を正常に行わせるよう「浅水」にします。
以降、登熟期は再び「間断かんがい」を行い、収穫前15日程度を目安に落水します。(落水は遅い方が良いのですが、収穫作業までに乾ききっていないとコンバインなどの大型機械で作業しにくくなります)
追肥
稲の生育状況に応じて、追肥を施します。
タイミングと効果としては、次のようなものがあります。
- 分げつ肥・・・田植えの2〜3週間後に施し、分げつや葉面積を増やします。効きすぎると過繁茂の原因になるので注意。
- つなぎ肥・・・有効茎を確保した後、窒素不足を補うのに施します。
- 穂肥・・・出穂の15〜25日前の幼穂形成期に施し、収穫時のもみの数を増やします。
- 実肥・・・出穂後に施し、実りを良くします。効きすぎると米の窒素含有率が上がり、食味が低下する恐れがあるので注意。
肥料は、窒素を中心に、カリ・リン酸を生育状態を見ながら適量を施します。
施肥量については、元肥と同様に品種や地域毎に施肥基準が設けられています。
雑草防除
水田での雑草防除は、次のような方法を効果的に組み合わせて行います。
- 化学的防除・・・除草剤を利用する(一般的な方法)
- 生態的防除・・・たん水状態にすることで雑草の発生を抑える
- 生物的防除・・・有用生物による防除。アイガモ放飼で雑草を食べさせたり、カブトエビの攪拌行動で雑草を浮かせるなど。
- 機械的防除・・・手で雑草を抜き取る、除草機で表土を攪拌して雑草を浮かせるなど
病害虫防除
稲の病害虫被害を防ぐには、健全な稲を育てることや抵抗性の強い品種を選ぶことが重要です。
薬剤の使用は、種子消毒、苗段階での病害虫防除、田植え時の害虫防除、本田での生育期間中の病害虫防除など、各段階において必要に応じて使用します。
主な稲の病害虫には次のようなものがあります。
いもち病 | 糸状菌が病原菌の稲の代表的な病害。気温25°前後で曇雨天が続くと多発し、大きな被害が発生する場合があるので注意。 |
紋枯病 | 高温多湿条件で発生しやすく、7月から9月にかけて葉鞘部に楕円形の斑紋を形成します。 |
イネツトムシ | 幼虫が葉を筒状に丸め、夜間に葉を食害します。 |
イネミズゾウムシ | 田植えの後、成虫が水田に侵入し葉を食害します。 |
ウンカ | 稲の大敵。体長5mmほどの昆虫で、イネを吸汁加害しウイルス病などを媒介します。 |
カメムシ | 出穂後に水田に侵入し、籾を吸汁加害。斑点米を発生させます。 |
ツマグロヨコバイ | イネを吸汁加害し、萎縮病・黄萎病などイネの伝染病を媒介します。 |
ニカメイチュウ | 幼虫が若稲に潜り込んで茎内を食害します。 |
ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)
田植え直後の柔らかい稲を根こそぎ食害するジャンボタニシ。食欲旺盛で繁殖力も高いため、放置しておくと被害も甚大になります。
稲の茎や田んぼの際に生み付けられる赤い卵には神経毒が含まれているため、素手で触らないよう注意。水中では孵化できないので、見つけたら水の中に落としておきましょう。
収穫・乾燥と調整
登熟(実入り)が進み、穂が黄金色に輝く頃になると収穫の適期です。(大部分のもみが黄色になり、10〜15%のもみに緑色を残している程度)
未熟なうちに収穫すると青米になり、刈り遅れると胴割れ米(米にひびが入る)になります。
収穫作業と収穫後の調整作業は一連の流れで行います。
- 刈取り・・・稲を刈り取る
- 脱穀・・・穂からもみを外す
- 乾燥・・・もみを乾燥させる
- もみすり・・・もみ殻を除いて玄米にする
- 選別・・・いい玄米とくず米に分ける
鎌で刈取り:刈取り → 自然乾燥 → 脱穀 → 調整(もみすり・選別)
コンバイン:刈取り・脱穀 → 機械乾燥 → 調整(もみすり・選別)
作業能率の良いコンバインによる収穫が普及していますが、品質や食味の点から前者も見直されています。
収穫
自脱型コンバインは、刈取りと脱穀を同時に行うことができます。もみはタンクに貯まり、刈り取った稲はバラバラに裁断して吐き出します。
コンバインを使わない場合は、稲を鎌で刈り取って収穫します。刈り取った稲株は、はさ掛けなどで自然乾燥させてから、脱穀機を用いて脱穀します。
また、自走式の歩行型収穫機械「バインダー」を使えば、刈り取りと結束を同時に行えます。
乾燥と調整
乾燥
収穫時のもみは多くの水分を含んでいる(22〜25%)ため、もみすりの能率や貯蔵性を高めるために水分を14〜15%に乾燥させます。
乾燥方法には次の2つがあります。
- 自然乾燥・・・はさ掛けや地干しなどによる天日乾燥。乾燥が不均一になることや天候により乾燥期間が不安定になる問題もある
- 機械乾燥・・・熱風による短時間で乾燥され、乾燥ムラも少ない。ただし、水分を多く含んだもみを高温で急激に乾燥すると、胴割れ米などが発生しやすくなる。
うちでは機械乾燥を利用しており、コンバインで刈取り・脱穀したもみを、その日の夕方には乾燥機に投入して、約15〜18時間かけて14.5〜15.0%になるまで乾燥させています。
調整
そして、最後に調整作業です。
調整作業は、「もみすり」と「選別」に分けられます。
籾殻を取り除いて玄米にする「もみすり」をした後、整粒と屑米を「選別」して包装します。(もみすりは「もみすり機」、選別は「粒選別機」などの機械があります。)
これら乾燥・調整作業は、ライスセンターやカントリーエレベーターという共同利用施設で行うこともできます。
- ライスセンター:米穀の乾燥・調製ができる施設
- カントリーエレベーター:ライスセンターに貯蔵機能が加わった施設
玄米は精米(ぬか層を取り除く)して、ようやく白米となって食卓に上がります。
収穫したての新米は水分含有量が多く、柔らかく、コシがあり、粘りがあり、ツヤがあり、新米で握ったおにぎりを食べるのが最高のひととき。
参考:収穫残さも畑に活用
稲刈りしてから精米して食卓に並ぶまでの過程で、白米の他に「稲わら」「もみ殻」「米ぬか」が出ますが、これら全て有機質資材として畑に有効活用することができます。
捨てるところのないお米作り(稲作)