野菜の苗作り・育苗の方法を紹介します。(家庭菜園向け)
育苗のメリットや必要な道具、育苗の手順と失敗しないためのコツなど。
育苗のメリット
苗半作という言葉があるように、作物の出来の半分以上は苗の良し悪しによって決まります。
外部環境の影響を受けやすい発芽から幼苗期を、適切な生育環境下において育てることを育苗といいます。
育苗は、畑への直播きに比べて次のようなメリットがあります。
- 目が届く場所で苗の管理がしやすい、作業効率がいい
- 良い苗を選んで植えることができる
- 生育が揃うために収量が安定する
- 育苗している間、空いている畑で他の野菜を育てられる
また、苗を購入する場合と比べて、株数が多くなるほどコストが抑えられる、出回っていない品種を育てられるなどのメリットもあります。
育苗資材
育苗を行うには、次のような道具が必要となります。
育苗用の容器
ポット
育苗専用に作られた、植木鉢のような形状の容器。
直径6cm、9cm、12cmなど、育てる品目に合わせて最適なものを利用します。
種が大きいウリ科の野菜などは、発芽後の双葉も大きいのではじめからポットに種まきをします。
家庭菜園でまく種の数が少ない場合も、はじめからポットまきにすると良いでしょう。
セルトレイ(プラグトレイ)
セルトレイは、育苗箱に小さめのポット(セル)が連結しているもので、プラグトレイとも呼ばれます。
穴数が128穴、200穴、288穴など、育てる品目に合わせて最適なものを利用します。
ポットと比べて、少ないスペースで苗を作ることができ、用土が少なくて済むなど、コスト面で大きなメリットがあります。また、ポットだと数粒まいて間引きしますが、セルトレイだと1粒ずつまいて良い苗を選ぶことができるので、種の節約にも。
キャベツ、ハクサイ、レタスなどの葉茎菜類は、セル苗をそのまま畑に定植できます。トマト、ナス、ピーマンなど育苗日数が長く、大きい苗にしてから植え付けたいものは、ある程度の大きさになったらポットに移植します。
育苗箱
プラスチック製の浅い箱で、水稲用が一般的ですが、野菜苗にも使用することができます。
深さがないため短期間の育苗向きで、発芽して本葉が出たところでポット上げして育てます。
培土(培養土)
育苗培土は、良質な苗ができるように適切な化学性や物理性を持つように作られており、加熱処理により病害菌が殺菌された清潔な培土です。
ホームセンターなどでは様々な培養土が販売されていますが、値段にも幅があります。品質の悪いものは根腐れを起こして枯れたりする場合もあるので、信頼できるものを選びましょう。
肥効日数が少ない培土は追肥が必要
育苗培土は生育制御をしやすくするために肥料を少なめに設定されています。
また、培土の種類によって肥効日数が異なります。(次の表はタキイの播種用培土の例)
品名 | 平均肥効日数 | 肥料添加量(mg / ℓ) |
---|---|---|
含水セル培土 初期肥効型 | 10 日程度 (追肥型) | N:50(初期肥効 50、持続肥効 0) P:40 K:130 |
含水セル培土 中期肥効型 | 15~20日程度 (追肥型) | N:190(初期肥効 30、持続肥効 160) P:190 K:255 |
たねまき培土 | 30~40日程度 (無追肥型) | N:460 P:500 K:440 |
セル培土TM-1 | 10~15日程度 (追肥型) | N:150 P:220 K:150 |
培土に含まれる肥料が初期肥効のみでそれ以降は追肥することが前提になっているものから、肥効日数が30〜40日ほどあり追肥不要のものまで様々な種類があるので、用途に応じて購入しましょう。
例えば、ホームセンターで購入した種まき培土を見てみると、”初期肥料は入っていますが、植物の成長に合わせて液肥又は園芸肥料などを適時施して下さい”とあります。
また、肥料添加量をmg / ℓに換算すると「N: 50 P:10 K:150」となり、上の表にあるタキイの培土と比較すると初期肥効型(10日程度)に近いものだとわかります。
こういった肥効日数が少ない培土は、育苗中の適したタイミングで追肥を与える必要があります。追肥には次のような液肥を使用します。
保温・加温機材
育苗に適した温度を保つための資材。
まず必要なのは、雨・風・霜などから守るビニール温室/簡易ハウス。家庭菜園など庭やベランダで育苗するのであれば、ミニ温室が便利です。
庭やベランダで作る簡易な育苗ハウス・ビニール温室寒い時期の夜間はさらに加温機材が必要となります。ビニール温室用のヒーター、ポットやトレーの下に敷くヒーターマットなど、育苗環境に適したものを使用しましょう。
数株程度の育苗なら、家庭用の発芽育苗器が便利です。
育苗の手順
育苗の具体的な手順は次のようになります。
播種日の決定
定植日を目安として、育苗日数を逆算して種まきの日を決めます。
例えば、トマトの植え付け適期(5月上旬)までに苗を仕上げるには、逆算すると3月上旬に種をまく必要があります。
この時期はまだ気温が低いため、加温・保温育苗器や温床マットなどを使って、温度管理することが必要になります。
準備
野菜の種、育苗容器、育苗培土を用意します。
育苗培土は、育苗中に土中のかびや雑菌などが繁殖して病気にならないよう、十分に消毒された清潔な培土を使用します。家庭菜園では、市販の育苗培土(種まき培土)を利用するのがオススメです。(育苗培土)
必要分の培土を広げ、水をかけてよくかき混ぜ、しっとりと湿らせておきます。(水分の目安は、土を握ると団子になり、触ると壊れる程度。)
庭やベランダで作業する場合は、園芸シートがあると便利です。
園芸作業の土汚れから室内やベランダを守る「園芸シート」育苗容器(セルトレイ/ポット)に、培土を詰めます。(育苗容器)
セルトレイには高さすり切りで均一になるように、ポットの場合は8分目まで土を入れ、地面にトントンと打ち付けて土をしめます。
種まき~発芽
指先で種をまく穴を開けます。(穴の深さは野菜の種類にもよりますが、種の2〜3倍の厚さ。)
セルトレイなら1粒ずつ、ポットなら3~5粒の種をまきます。
種の上に軽く土を被せ、全体に水をやります。(種が流れないよう優しく灌水します。)
種まき後、発芽するまでは土を乾かさないようにしましょう。新聞紙などを被せておくと、土の乾燥を防ぐことができます。
種まき後は、発芽適温に近い場所に置いて発芽を促します。寒い時期の場合は、加温・保温育苗器や温床マットなどを使います。(保温・加温機材)
芽出し中は基本的に灌水は行いません。(土の表面を見て乾燥している場合は、軽く水をやります。)
野菜の種類にもよりますが、種まきから1~2日程度で発芽が始まります。
発芽~管理
日当たり
発芽後は日光にしっかり当てるようにします。新聞紙を被せている場合は、発芽直前に外しておきます。
発芽直後に日照が十分でないと、間延びしたヒョロヒョロの苗になり(徒長)、植え付け後の生育がよくありません。
発芽が始まり、芽が地表部に出る直前に明るい場所に移動させて、日照を確保するようにしましょう。
水やり
発芽後は朝に水をやり、夕方には土の表面が乾く程度にします。
夜に水分が多いと徒長の原因になるため、水やりは朝に行うようにしましょう。(徒長の原因と対処)
灌水ムラのないよう均一に、また、葉が倒れないようにシャワー状の水を静かにかけるようにします。
温度管理
野菜の種類ごとの生育適温(種袋に記載あり)に注意しながら温度管理します。
低温期は保温、高温期は換気によって適温を確保します。
また、風通しが悪いと苗が軟弱に育ち、病害虫が発生しやすくなるため、基本的に日中は十分に換気を行なって、過湿にならないように気をつけましょう。
春先の育苗
春まきの種は、まだ寒さが残る早春にまきます。多くの種の発芽適温は15〜25℃くらいなので、この時期の育苗には温度管理が重要となります。(保温・加温機材)
屋外ではビニール温室に入れ、日中は日当たりが良い場所においてビニールを開け、夜間はヒーターなどで加温します。(衣装ケースや発泡スチロールの箱などの代用も可能)
庭やベランダで作る簡易な育苗ハウス・ビニール温室真夏の育苗
真夏の育苗は、涼しくして育てる工夫が必要です。
風通しが良くなるようにコンテナの上に置くなど、下が抜けている台に乗せて高床式にします。(冷床)
また、遮光資材を掛けて直射日光を遮るようにしましょう。夏は病害虫が多いので、寒冷紗を掛けておくと害虫対策にもなります。
うちで利用しているタカショーのウッドシェルフだと、ビニールカバー/ネットと交換可能なので、春先はビニール温室、夏はネットで遮光&高床式で冷床と、家庭菜園にオススメです。
庭やベランダで作る簡易な育苗ハウス・ビニール温室追肥
使用する培土や条件によって異なりますが、肥料が切れ始め、葉色が淡くなってきたら液肥などにより追肥します。(肥効日数が少ない培土は追肥が必要)
ポット上げ(鉢上げ)
セルトレイに種をまいた場合で、トマトやカボチャなどの果菜類のように、より大きな苗に育てる場合には、一定の大きさになったらポリポットに移植するポット上げ(鉢上げ)を行います。
セルトレイから苗を取り出し、育苗培土を詰めておいたポットに移植します。根を傷つけないよう注意して作業しましょう。
ポット上げ前は水やりを控えておき、移植後に水やりをしましょう。
順化
定植の1週間ほど前から、外気の温度に慣らさせます。
暖かい育苗ハウス内の温度を徐々に下げる、夜間外に出すなどして、徐々に低温や強光に合わせ、環境の変化に耐えられるようにします。
定植
苗が十分な大きさに育ったら、畑に定植します。
定植前に、苗に十分に灌水を行なっておきましょう。
苗は根が鉢土をうっすらと覆う程度が適期です。
根がグルグルと巻いて絡み合っている場合は、根が土の中で広がることができないため、軽くほぐしてから植え付けましょう。
緩やかな山を作るように土を被せたら、土を軽く押さえ、たっぷりと水をやっておきましょう。
苗が徒長した場合の対処
徒長とは、植物が間伸びをした状態に育ってしまうことで、写真↑のようにヒョヒョロと細長く伸びた苗は、その後の生育も良くありません。
苗が徒長する原因は主に次のパターン。
水分が多すぎる
水やりは朝に行うようにし、夕方には土の表面が乾き気味になるようにします。
光が不足している
日当たりの良い場所に移して育苗します。
寒冷紗などで覆いをしている場合は、11時~14時の間以外は取り除いておきます。
温度・湿度が高い
保温トンネルやビニール温室などでは、日中あけて換気をし温度を下げるようにします。