病害虫防除は薬剤だけに頼らない「総合防除(IPM)」が主流です。
耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除を組み合わせることで、効果的かつ安全性、環境保全も高める防除を図ります。
総合防除に用いる、具体的な防除方法・防除技術を紹介します。
病害虫対策の考え方
まずはじめに、病害虫も生態系の一端を担っている存在です。病原菌を餌とする善玉菌も、害虫を捕食する天敵昆虫も、病害虫がいてこそ繁殖して増えることができます。
病虫害というのは、病原菌や害虫の数が増えすぎた時に発生します。生態系のバランスが悪い環境や間違った野菜の育て方をしていると数を増やしてしまいます。
化学農薬を使えば楽に病害虫を減らせますが、善玉菌も天敵昆虫も死滅させてしまいます。農薬を使わない方が、生態系が安定して病害虫の増加を抑えられます。
病害虫防除の主流は、現在は薬剤だけに頼らない「総合的有害生物管理(IPM、Integrated Pest Managment)」が基本となっています。
栽培環境を整えながら植物を上手に育て、資材も有効活用し、病気や害虫を早く見つけて駆除するなど、いろいろな方法を組み合わせて発生を軽減した上で、必要に応じて薬剤も使用して、より効果的な対策を行おうとする考え方です。
防除方法は大きく次の4つに分類され、それぞれ具体的な方法を紹介します。
耕種的防除
栽培方法を変えることで防除する方法です。
輪作、土壌改良、品種改良による病害抵抗性品種や台木の利用などがあります。
輪作
同じ作物を連作すると土壌病害や線虫の被害が多くなります。(連作障害)
これら病害虫の被害は、類縁関係の遠い作物と輪作することにより軽減することができます。
連作障害の原因と対策、各野菜の輪作年限について土壌改良
土壌の保水性・排水性・通気性・生物性・化学性が悪いと病害虫発生の原因にもなります。
そのため、土壌改良により地力を高めることが大切です。
抵抗性品種
同じ作物でも品種によって病害虫に対する抵抗性は異なります。
病害虫に強い品種を選ぶことで、病害虫に対する被害を抑えることができます。
台木・接木苗
土壌病害は根から侵入するので防除が難しく連作障害の一因にもなります。
そこで、接ぎ木の台木に抵抗性のあるものを使うことで、土壌病害に対して抵抗性を持たせることができます。
例えば、キュウリやスイカなどの「つる割病」には、カボチャやユウガオを台木にした接木苗などがあります。
物理的防除
光や熱などの物理的手段を利用して防除する方法です。
誘蛾灯や黄色蛍光灯、太陽熱を利用した土壌消毒、マルチング、防虫ネットなどがあります。
誘蛾灯・黄色蛍光灯・光反射テープ
光を利用するものでは、虫が光によってくる性質を利用した「誘蛾灯」や、夜行性害虫の行動を抑えるために、虫の嫌う「黄色蛍光灯(防蛾灯)」があります。
また、「アブラムシ」などに対しては、反射光を嫌う性質を利用して、シルバーマルチを敷く/銀色の光反射テープを張るのも有効です。
土壌消毒
土壌消毒は、土壌線虫や土壌伝染性の病害を防除するために行います。
薬剤による方法と熱による方法があり、熱による方法には蒸気消毒や熱水消毒、太陽熱消毒があります。
雑草対策に太陽熱マルチ殺草処理(太陽熱土壌消毒)を試してみるマルチング
マルチングは、地温の管理、乾燥や雑草を抑制するだけでなく、降雨時の土の跳ね上がりを防ぐことで、土壌中に生存する「疫病」などの茎葉への感染を防ぐ効果があります。
マルチング資材にはいくつか種類があり、シートの色によって様々な特徴があります。
中でも、銀色のシルバーマルチは光を反射するので、反射光を嫌うアブラムシやアザミウマなど害虫の飛来防止にもなります。
マルチシートの種類とマルチの張り方防虫ネット(被覆資材)
防虫ネットなどの被覆資材でトンネルを張る/覆うことで、害虫の侵入を遮断します。
被覆資材にはいくつか種類があり、資材によって保温・防虫・防風の効果を得ることができます。
被覆資材の種類とトンネルの掛け方粘着トラップ
粘着トラップは、害虫が特定の色に誘引される習性を利用し、物理的にくっつけて初期発生を確認したり、生息数を減らしたりできます。
生物的防除
有害生物の生活の特性などから、自然界に存在している天敵を利用して防除する方法です。
捕食性昆虫、寄生蜂、捕食性ダニ類、天敵微生物、拮抗細菌などがあります。
天敵
害虫を食べて退治してくれる虫(天敵)を利用する防除方法。
他の生物や生態系に対する負荷が少ないことや、食う食われるの関係が安定すると防除の効果が長く続くなどの利点があります。一方で、条件によっては効果が安定しない、他の農薬散布が難しくなるなどの問題もあります。
これら天敵(微生物や昆虫など)を生きた状態で製品化した「天敵製剤(生物農薬)」として入手可能です。
コンパニオンプランツ
植物を組み合わせて植えることで、一方が他方の病害虫を抑えたり生長を助ける「コンパニオンプランツ」。
ミントやニンニク、マリーゴールドのように強いにおいのハーブや草花を植えて害虫を寄せ付けないようにしたり、害虫が寄生しやすい植物を囮にして植えたり、天敵を集める植物を植えるといった組み合わせがあります。
コンパニオンプランツの組み合わせと効果バンカープランツ
天敵を圃場内に定着させるための植物。
代表的なものに、ムギ類やソルゴーなどがあります。
インターセクタリープランツ
インターセクタリープランツとは、天敵涵養(かんよう)植物とも呼ばれ、害虫を食べ尽くしてしまった天敵に花蜜や花粉で餌を提供したり、天敵を誘引する「餌場」となる植物のこと。
代表的なものに、マリーゴールドなどがあります。
化学的防除
農薬を散布することにより防除する方法です。
病気の防除に用いられる「殺菌剤」、害虫の防除に用いられる「殺虫剤」、他に人工性フェロモンの利用などがあります。
農薬
病気の防除は、病原菌に感染する前にそれを防ぐ「予防」と、感染後に進行を阻止する「治療」とがあります。一般に、病気は発病してからでは治療が困難なため、予防に重点が置かれます。
殺虫剤は、害虫への作用の仕方から、接触剤、浸透移行剤、誘引殺虫剤などに分けられます。
また、天然物由来の素材を使うことで、有機栽培にも利用可能な農薬もあります。
農薬の正しい使い方性フェロモン
成虫のメスがオスを誘引するために放出する物質を「性フェロモン」と言います。
人工的に合成し害虫のオスを誘引することで大量に捕獲し交尾を防ぐことで防除する方法と、性フェロモンを濃い濃度で散布しオスとメスの交信を混乱させて交配できなくする方法があります。
また、フェロモントラップとは、寄ってきた害虫を水や粘着液などで殺虫するもので、フェロモントラップに寄ってくる個体数をモニタリングして今後の発生予測を立てるのにも使われます。