
蜜が溢れるような「ねっとり系」の焼き芋。自分で焼いてみたら、思ったほど甘くならず「ホクホク」になってしまった…。そんな経験はありませんか?
実は、さつまいもをねっとり甘く仕上げるには「品種選び」と「ある温度」が鍵を握っています。
この記事では、焼き芋が甘くなる仕組みと、家庭のオーブントースターやキャンプの焚き火で失敗しない「ねっとり甘い焼き芋」の作り方を紹介します。
まずは「芋」選びから

焼き芋の美味しさは、芋の選び方で大きく変わります。
目指す食感に合わせて「品種」を選び、加熱ムラを防ぐために「サイズ」と「形」を選ぶことが大切です。
品種
ねっとり系(粘質)
水分が多く、糖度が高いのが特徴。じっくり加熱することでデンプンが糖に変わり、ねっとりとした食感と強い甘みが出ます。
- 紅はるか
- シルクスイート
- 安納芋
蜜たっぷりのねっとり甘い焼き芋にするなら、「ねっとり系」品種を選びましょう
ホクホク系(粉質)
水分が少なくデンプン質が多いのが特徴。加熱すると粉を吹いたようにホクホクした食感になります。昔ながらの焼き芋や天ぷらに向いています。
- 紅あずま
- 高系14号(鳴門金時など)
サイズと形
焼き芋をムラなく仕上げるには、サイズと形も重要です。
理想の太さ
直径5~8cm程度(握りこぶしより細め)。 太すぎる芋は、中心が甘くなる前に外側が焦げてしまい、加熱ムラが起きやすくなります。
理想の形
全体の太さが均一な「紡錘形(ラグビーボール型)」。 凸凹した形の芋は、細い部分が先に焦げてしまうため、均一に仕上がりません。
掘り立てのものは「追熟」してから
さつまいもは収穫してすぐ食べるより、一定期間(1ヶ月ほど)貯蔵(=追熟)させた方が、デンプンがゆっくりと糖に変わり、甘みが増します。
もし掘りたての芋を手に入れた場合は、新聞紙に包んで冷暗所(13℃~15℃が理想)で寝かせてから使うと、より甘さを引き出せます。
焼き芋が「ねっとり甘く」なる仕組み

焼き芋は「高温で一気に焼いた方が美味しい」と思われがちですが、実はまったくの逆です。ねっとり甘い焼き芋の秘密は「低温でじっくり」にあります。
さつまいもには、デンプンを甘い糖である「麦芽糖(バクガトウ)」に変える「β-アミラーゼ」という消化酵素が含まれています。この酵素が最も活発に働くのは、約60〜75℃ の温度帯です。
さつまいもをゆっくり加熱し、芋の中心温度がこの「60℃~75℃」のゾーンを長く通過することで、デンプンが水分を吸って柔らかくなり(=糊化)、同時に酵素が最大限に働いて甘い麦芽糖がたっぷり作られます(=糖化)。
じっくり加熱で糖化させた後、最後に水分を飛ばすことで、甘みがギュッと濃縮された「ねっとり焼き芋」が完成します。
つまり、ねっとり甘い焼き芋を作るコツは、「いかに60℃~75℃の温度帯を長くキープできるか」にあります。
実践!ねっとり焼き芋の作り方
オーブントースター(寝かし焼き)
手間はかかりますが、糖化温度帯(60-75℃)を余熱でキープすることで、芋の甘さを極限まで引き出す方法です。

洗ったサツマイモを、水気がついたままアルミホイルで包みます。

オーブントースターを160℃に設定し、50〜70分加熱して中心まで熱を通します。
途中で一度ひっくり返すとムラが防げます。
温度設定ができない場合は、アルミホイルを二重にし、一番低いワット数で加熱してください
電源を切り、扉を開けずに60分放置します。
余熱でじっくり温めることで酵素が働き、デンプンが「糖」に変わります。
再び160℃で40〜60分加熱。
水分を飛ばし、甘みと蜜をギュッと凝縮させます。
高温だと皮だけ焦げて中がベチャッとなりがちです。低温でじっくり水分を飛ばすことが、「ねっとり感」を出す秘訣です。

竹串がスッと通り、蜜が染み出していたら食べ頃。
オーブントースター(シンプル版)
先述の「寝かし法」と違い、手間をかけずにオーブントースターで焼く方法。
さつまいもを洗い、アルミホイルで包みます。
オーブントースターに入れ、160℃の低温に設定します。
芋の太さにもよりますが、90分~120分ほど、じっくり時間をかけて焼きます。(途中で一度、上下ひっくり返します)
糖化温度帯(60-75℃)をゆっくり通過させます
竹串がスッと抵抗なく通れば完成です。
焚き火
焚き火で作った焼き芋を取り出してみると、表面は炭のように真っ黒なのに、中はまだ硬く生焼けでガッカリ…という失敗談。これは焚き火で勢いよく燃え上がる炎は、焼き芋には強すぎなのが原因。
そのため、焚き火では、非常に高温で不均一な熱をいかにコントロールするかが鍵となります。

焚き火台に薪を組んだら焚き付けをして、火力が安定する熾火(おきび)状態になるまで待ちます。
熾火とは、薪が燃え尽きる手前で、炎を上げずに芯の部分が真っ赤に燃えている状態のこと。

さつまいもを洗います。
濡らした新聞紙(またはキッチンペーパー)で芋全体を隙間なく包みます(含ませた水分は軽く絞る程度)。
その上から、アルミホイルでさらに二重にしっかりと包みます。
強すぎる火力を「蒸し焼き」で和らげ、芋の内部温度の急上昇を防ぎます。

熾火の上にサツマイモを置きます。(熾火の中に埋めるのではなく、周りの熱で優しく加熱するイメージ)
焼き時間は、中サイズで40〜60分が目安。15分ごとにサツマイモを転がして均一に熱が加わるようにします。

竹串がスッと抵抗なく通れば完成です。
補足:黒ホイルについて

自宅で焼き芋を作るときに便利な商品として、「黒ホイル(例:石焼きいも黒ホイル など)」があります。
通常の銀色のホイルとは仕組みが少し異なり、黒い面が熱を効率よく吸収するのが特徴です。
- 通常のホイル(銀色):ヒーターなどの熱源から出る熱(遠赤外線)を反射します。そのため、熱の伝わり方が比較的ゆるやかで、じっくり火が通ります。
- 黒ホイル(片面が黒):黒い面は熱(遠赤外線)を効率よく吸収します。ヒーターの熱を無駄なく取り込み、芋にすばやく伝えることができるため、高温・短時間での調理(時短)に向いています。
この記事で紹介した「ねっとり甘い焼き芋」の作り方は、あえて熱効率を下げて芋の温度をゆっくり上げることで、糖化温度帯(約60〜75℃)を長くキープするのがポイントです。そのため、黒ホイルではなく通常の銀ホイルを使うのが適しています。
一方、短時間でホクホク系の焼き芋を作りたい場合は、黒ホイルを使うのがおすすめです。目的に合わせて、ホイルを使い分けましょう。


