
農薬は作物を病害虫から守るための資材ですが、対象の作物や症状に合っていないものを選ぶと、十分な効果が得られなかったり薬害の原因になったりすることがあります。
この記事では、初めての方でも迷わずに必要な農薬を選べるよう、「農薬選びの5つのステップ」を順を追って解説します。
1. 症状を確認し、原因を絞り込む
農薬を選ぶ第一歩は、作物の被害状況(症状)をよく観察し、「原因が病気なのか害虫なのか」「具体的に何の病害虫か」を特定することです。
- 病気のサイン:葉に白い粉が吹いている、黄色や黒の斑点が出ている、葉や茎がとろけて腐っている
- 害虫のサイン:葉がかじられている、虫の姿やフンがある、葉がベタベタする
当サイトの「病害虫図鑑」では、主要な病害虫の写真から症状を照合できます。原因の特定や見分ける際にお役立てください。
2. 対象に合った農薬を探す
病害虫の種類がわかったら、それに対応する農薬を探します。
①病気か害虫か
農薬は、大きく分けて以下の3つに分類されます。まずは「虫なのか、病気なのか」でどれが必要か判断しましょう。
- 殺虫剤:アオムシやアブラムシなどの「害虫」を退治・予防する薬
- 殺菌剤:うどんこ病や炭疽病などの「病気」を防ぐ・抑える薬
- 殺虫殺菌剤:虫と病気の両方に同時に効く複合薬
②使用する作物と防除したい病害虫
農薬には、使用できる作物や防除できる病害虫が定められています。

ラベル裏面の適用表で次のことを確認しましょう。
- 「作物名」の確認:使用する作物が記載されているか
- 「適用病害虫名」の確認:特定した病害虫の名前が正しく載っているか
3. 目的に合った特徴を確認する
対象に使える農薬の候補が見つかったら、薬剤の効き方や防除のタイミングなど、自分の栽培目的に合った特徴を確認して候補を絞り込みます。
薬剤の効き方(成分の動き)
農薬は、散布した後の成分の動きによって、大きく3つのタイプに分かれます。
- 接触型
薬剤が直接付着した部分や、薬剤に触れた病害虫などに作用するタイプ - 浸達性(しみ込む)
葉の表側に散布しても組織にしみ込み、裏側に潜む病害虫にも効果が届くタイプ - 浸透移行型(全体へめぐる)
成分が根や葉から吸収され、植物全体(新芽や他の葉)に行き渡るタイプ
成分の移動範囲や効果の現れ方は、農薬の種類によって異なります。
殺菌剤について

病気を防ぐ殺菌剤は、大きく「予防剤」と「治療剤」に分けられます。
病害防除では予防剤を基本とし、必要に応じて治療剤を使います。
予防剤(病気が発生する前に使う基本の薬)
予防剤は、病原菌が植物に侵入する前に散布し、感染や発病を防ぐための薬です。(すでに植物体内に侵入した病原菌には、十分な効果が期待できません。)
- 仕組み
植物の表面をバリアのように覆って侵入を阻止するタイプや、植物自身の耐病性を高めるタイプがあります。 - 特徴
病原菌のさまざまな部位を幅広く狙うため、長年使い続けても耐性菌が出にくい傾向にあります。安価で対応できる病気も広いため、「定期的に散布して病気を未然に防ぐ」のが病害防除の基本となります。
治療剤(病気が出てしまった時の切り札)
治療剤は、植物に侵入した病原菌の活動や増殖を抑え、発病の進行を防ぐための薬です。(病気が進行してからでは十分な効果が得られない場合もあります。)
- 仕組み
成分が葉の中に浸透し(浸達性・浸透移行性)、すでに侵入した病原菌の呼吸や増殖をピンポイントで止めます。 - 特徴
高い効果を発揮しますが、特定の病気にしか効かないものが多く、ピンポイント攻撃ゆえに使い続けると耐性菌が発生しやすいリスクがあります。予防目的での常用は避け、「病気が発生してしまった時の切り札」として使います。
なお、製品によって予防効果と治療効果の両方を持つものもあります。
殺虫剤について

殺虫剤の仕組みを理解するには、成分の「体内への取り込まれ方」と、入った後に「どこを攻撃するか」の2つの視点から見ると分かりやすくなります。
体内への取り込まれ方(侵入経路)
殺虫剤が害虫の体内に入る経路は、大きく分けると「皮膚から」と「口から」の2通りです。
- 皮膚から(接触剤)
薬剤が体に直接かかることで、皮膚を通して取り込まれます。 - 口から(経口剤)
作物の表面についた薬剤を葉ごと食べるタイプと、作物体内に吸収された成分を樹液と一緒に吸うタイプ(浸透移行性)があります。
どこを攻撃するか(標的)
取り込まれた成分が、害虫の体の「どこを攻撃するか」によって主に5つのタイプに分かれます。
- 神経・筋肉に効くタイプ(最多)
神経伝達を乱して麻痺やけいれんを起こさせます。 - 皮膚の合成を邪魔するタイプ
昆虫が成長(脱皮)するときに、新しい皮膚(キチン質)を作らせなくします。 - 成長ホルモンを乱すタイプ
脱皮や変態をコントロールするホルモンバランスを崩し、成長や産卵を抑えます。 - 呼吸(エネルギー代謝)を邪魔するタイプ
害虫の細胞内で、呼吸によってエネルギーを生み出す仕組みを阻害し、正常な生命活動を妨げます。 - 消化器官を破壊するタイプ(BT剤など)
害虫が食べて消化器官(アルカリ性)に入ると、胃の細胞を破壊して食害を止めます。
4. 使いやすい「剤型」を選ぶ
農薬には、スプレーで散布するもの、水で薄めて使うもの、粒状のものなど、さまざまな「剤型(製品の形や使い方の違い)」があります。
散布する場所の広さや植物の数、使いやすさに合わせて選びましょう。
- スプレー剤(そのまま使うタイプ):水で薄める必要がなく、手軽に散布できる
- 希釈タイプ(乳剤・水和剤・水溶剤など):水で薄めて、噴霧器などで散布する
- 粒剤など:株元にまいたり、土に混ぜたりして使う
初心者の方や、使う量が少ない方には、すぐに使える「スプレー剤」が便利です。また、散布液を作らず、株元にまいたり土に混ぜたりするだけで使える「粒剤」も、初心者に使いやすいタイプです。
一方、散布する範囲が広い場合や植物が多い場合には、水で薄めて使う「希釈タイプ」が適しています。少量の農薬から多くの散布液を作れるため、広い範囲に散布する場合に便利です。
そのまま使うタイプ
- スプレー剤
容器からそのまま噴霧できるタイプです。希釈や散布液を作る手間がなく、家庭菜園で少量の株に散布するときに便利です。 - 粒剤(りゅうざい)
粒状の農薬を、株元や土壌などに散布するタイプです。製品によって、株元にまくものや土に混ぜるものなど、使用方法が異なります。
水で薄めて使うタイプ
- 乳剤
液体の農薬を水で薄めて使うタイプです。水に混ぜると白く濁るのが特徴です。 - 水和剤
水に溶けにくい粉末を水中に分散させて使うタイプです。時間がたつと沈殿することがあるため、調製時や散布中は、製品の説明に従って十分にかき混ぜます。 - 水溶剤
水に溶ける粉末や粒状の農薬です。水に溶かして使います。 - フロアブル剤
有効成分を細かな粒子として液体中に分散させたタイプです。水で薄めて使い、水和剤に比べて粉が舞いにくいのが特徴です。
同じ剤型でも、対象作物や使用方法は製品によって異なります。実際に使用する際は、農薬のラベルで対象作物や使用方法、使用上の注意を確認しましょう。
5. 使用条件とラベルを確認する
使う農薬の候補が決まったら、購入する前にラベルや製品情報で具体的な使用条件と注意事項を最終チェックします。
外箱・ボトルラベルからわかること

- 登録番号
「農林水産省登録第○○号」という表示で、国に登録された農薬である証です。 - 商品名と種類名(一般名)
商品名(ブランド名)だけでなく、有効成分の系統を示す「種類名」も記載されています。 - 成分
農薬が病害虫に効く「有効成分」と、その働きを助ける「補助成分(界面活性剤や溶剤など)」でできています。 - 内容量・含有量
内容量と希釈倍率から、作れる散布液の総量がわかります。 - 有毒性
「劇物」「毒物」の表示がある製品は、購入時に身分証明書や印鑑(受領印)が必要です(一般の家庭園芸用は「普通物」が主流です)。
説明書・詳細ラベルからわかること

- 適用病害虫と使用方法(適用表)
使える作物、効く病害虫、希釈倍率、単位面積あたりの使用量、使用時期(収穫前日数)、総使用回数、散布方法が載っています。ここに記載のない作物や病害虫には使用できません。 - 効果・薬害等の注意
「〇〇との混用は不可」「高温時の散布は避ける」「〇〇品種には薬害が出る恐れがある」など、使用上の重要な注意点が記載されているため、事前に必ず確認します。 - 保管方法
直射日光や高温多湿を避け、食品やペットの餌と完全に区別して、冷涼・乾燥した場所に保管します(毒物・劇物は施錠管理が必須です)。 - 最終有効年月
期限が切れたものは、品質が保証されないため使用しないようにしましょう。
農薬を選んだ後は、正しい希釈倍率を守り、安全具を着用して正しく散布することが大切です。具体的な希釈計算や散布手順は「農薬の正しい使い方」をご覧ください。
(参考)ローテーション散布について
同じ農薬を繰り返し使い続けると、その農薬がだんだん効かなくなる現象が起こります。(薬剤抵抗性)
同じ作用機構の農薬を繰り返し使い続けると、その成分に強い個体(抵抗性を持つ個体)が生き残って繁殖し、やがて農薬が効かない病害虫だらけになってしまうのが理由です。
抵抗性の発達を抑えるためには、作用機構の異なる農薬を組み合わせる「ローテーション散布」を検討しましょう。
その際の目安になるのが、パッケージや製品情報に記載されている「RACコード」です。
RACコードとは?
RACコードとは、農薬の「作用機構(攻撃パターン)」ごとに分類されたグループ番号のことです。
- IRAC(アイラック):殺虫剤の分類コード
- FRAC(エフラック / フラック):殺菌剤の分類コード
パッケージの表や裏にある「殺虫剤分類 4A」や「FRACコード 11」といった記載を確認し、作用機構の異なる農薬を組み合わせて使用することが基本です。
使用回数やローテーションの方法は、各農薬のラベルや防除指針に従ってください。
RACコードはどうやって調べるの?
パッケージやボトルに直接記載されているケースが増えていますが、記載がない場合や購入前に事前に調べたい場合は、以下の方法で確認できます。
- パッケージ・添付文書を見る
「殺虫剤分類 4A」「FRAC 11」などの表記を探す - 農薬メーカーの公式サイトを見る
各製品のWebカタログや詳細ページに掲載されています - RACコード分類表(一次情報)で検索する
国内の農薬業界団体「クロップライフジャパン」が公開している最新の分類表で、有効成分や商品名から検索できます
商品名や成分名を変えても「同じ攻撃」になっている?
「効かなくならないように毎回違う農薬を買っている」という場合でも、注意が必要です。実は、見た目の名前を変えても病害虫にとっては同じ攻撃を受けているケースがよくあります。
- 商品名が違っても:使われている「有効成分」が全く同じことがある
- 有効成分が違っても:効く仕組み(作用機構)が同じ系統に分類されることがある
(参考)有機農業でも使える農薬
有機栽培では農薬を一切使えないと思われがちですが、有機JASの規格で使用が認められている農薬もあります。
ただし、有機JASでは、病害虫が発生しにくい環境づくりや防虫ネットなどによる対策を基本とし、農薬などの資材を使用する場合は、規格で認められたものを適切に使用する必要があります。
また、天然由来の成分だからといって、必ずしも安全性が高いというわけではありません。成分の由来だけで判断せず、農薬の効果や使用上の注意を確認して選びましょう。
有機JAS対応農薬の選び方と注意点
1. 店頭での見分け方
パッケージに「有機JAS適合資材」「有機栽培に使用可能」などの表示があれば、選ぶ際の目印になります。ただし、表示だけで判断せず、農林水産省の情報や適合資材リストなどで、実際に使用できる資材か確認しましょう。

2. 有機JAS認証を取得して出荷・販売する場合
有機JASでは、使用できる農薬や資材に条件が定められています。規格に記載された農薬の種類に該当していても、すべての商品が使用できるとは限りません。具体的な製品が規格に適合しているか、登録認証機関に確認しましょう。
3. 農薬の使用ルールを守る
有機JASで使用できる農薬であっても、農薬の登録内容に従って使用する必要があります。対象作物や希釈倍率、使用時期、使用回数など、ラベルに記載された条件を守りましょう。
- 有機資材リスト掲載一覧表 (農林水産省)
- 適合資材リスト検索 (有機JAS資材評価協議会)
よくある質問(FAQ)
- 値段の高い農薬の方がよく効くの?
- 価格の高さと効果の強さは比例しません。 新しく開発された有効成分や特許期間中の薬剤は高価になる傾向がありますが、最も重要なのは「対象の病害虫や作物に合っているか」です。 例えば、殺菌剤の「予防剤」(ダコニールやジマンダイセンなど)は古くから使われているものが多く、比較的安価で購入できます。安価でありながら対応できる病気の種類が広く、耐性菌も出にくいため、「安価な予防剤をこまめに撒いて未然に防ぐ」のが最もコストパフォーマンスに優れた防除となります。
- 名前の違う農薬を買ったのに「同じ成分」なことがあるのはなぜ?
- 商品名は違うのに成分は同じという農薬はたくさんあります。特許切れの有効成分で作った「ジェネリック農薬」、対象作物によって薬剤を作り分けているもの、成分含有量を変えて対象病害虫や散布方法を変えているものなど。他にも、売り先によって名前を変えているだけのものもあります。そのため、購入時は商品名だけでなく、必ず「有効成分名」や「RACコード」をチェックして選ぶようにしましょう。

