
クラウドサービスにより農業でも安価にITを活用できるようになってきました。
ここでは、国内で主要な農業クラウドサービスについて、それぞれの特徴をまとめています。(随時追加・更新)
農業クラウドとは?
農業クラウドとは、農作物の生産から流通、販売管理など、農場経営にかかわる業務を支援するクラウドサービスのこと。
中心となるのは農作物の生産支援で、蓄積したデータを用いて農場での業務をサポートするほか、これまで経験と勘に頼っていた農作業のノウハウをデータ化して、素人でもベテランと同じように農作物を生産できるようにすることを目指しています。

従来でも農業へのIT活用はあったのですが、小規模農家/法人にとっては、ITシステム導入はコスト的に難しい面がありました。
しかし、安価で繊細なセンサーなどのモニタリング機器や、作業現場でも入力しやすいスマホ・タブレット端末の普及、通信インフラの整備により、農地でもITを導入しやすくなりました。
また、「利用した分だけ払う」料金体系のクラウドサービスであればコスト負担を抑えることができ、今後は個人農場にもどんどん広がっていくと思われます。
主な農業クラウドサービス
現在、国内での農業クラウドサービスの主力は、富士通、NEC、日立ソリューションズあたりですが、近年は中小ベンダーも急増しています。
また、農機メーカーのクボタ、自動車メーカーのトヨタなど異業種からの参入も目立ち、各社とも自社の強みを取り入れたサービスを提供しています。
主な農業クラウドサービスについて、それぞれ特徴を列記します。
サービス名 | 提供会社 | 特徴 |
---|---|---|
Akisai(秋彩) | 富士通 | 露地栽培、施設栽培、畜産をカバー。経営・生産・販売まで企業的農業経営を支援。 |
栽培ナビ | Panasonic | 栽培情報の「見える化」、地域の農業経営をサポートするICT管理ツール |
農業ICTソリューション/アグリネット | NEC・ネポン | 経営・生産・流通までトータル支援。ネポンのハウス内機器と連携。 |
GeoMation Farm | 日立ソーリューションズ | GIS(地理情報システム)を活用した農業情報管理システム |
KSAS | クボタ | クラウドサービスとクボタの農機とを組合せたサービス |
豊作計画 | トヨタ | 圃場を集約管理、複数の作業者が効率的に作業できる工程を自動作成 |
アグリノート | ウォーターセル | Googleマップ・航空写真を利用した農業日誌・圃場管理ツール |
フェースファーム | ソリマチ | 作業記録・生育記録をマップで確認しながらその場で入力、自動集計。日本GAP協会推奨。 |
e-kakashi | PSソリューションズ | 圃場に設置したセンサーデータを集約・可視化する |
みどりクラウド | セラク | 低価格で導入できる圃場モニタリングシステム |
Agrion | TrexEdge | 作業記録、販売管理を中心としたクラウド型農業支援アプリ |
畑らく日記 | イーエスケイ | 無料で利用できるスマホの農作業記録アプリ |
freee(フリー) | freee | 農業の確定申告に対応したクラウド会計サービス |
Akisai(秋彩)
富士通が運営する、食・農クラウド「Akisai(秋彩)」。
生産現場でのICT活用を起点に流通・地域・消費者をバリューチェーンで結ぶサービスを展開しようというもので、そのサービスは露地栽培、施設栽培、畜産をカバーし、生産管理から経営管理、販売管理まで一体で行うことができます。
中核となる農業生産管理SaaSでは、生産管理、施設園芸環境制御、土壌分析施肥設計(開発中)、圃場センシングネットワーク(開発中)、植物工場向け 生育管理、アセスメントガイド運用支援、畜産向けに牛歩、肉牛生産管理などの機能があります。
大規模化、生産の工業化、6次産業化など事業規模の拡大を目指し、企業的経営の実現を目指す農業法人/農業生産者を中心に導入が進んでおり、多くの導入事例も紹介されています。
また、自社農場「Akisai農場」での実践・検証をもとに開発を加速するなど、農業クラウドサービスの中で最も先行している印象です。
農業生産管理SaaSの価格は初期費用5万円、月額4万円〜ですが、月額1500円〜利用することができる生産管理の簡易版(作業記録・防除/施肥記録)も用意されています。
栽培ナビ
Panasonicが運営する、双方向クラウド型 農業管理システム「栽培ナビ」。
地域や法人単位で利用可能なクラウドサービスで、生産者の記録した情報を農業組織と共有し、双方向に情報連携することで、最適な栽培方法や収益向上を目指すことができます。(日本GAP協会推奨)
生産者の栽培情報・作業記録を見える化することで収穫時期の把握や販売力を高める、地域に適合した農薬データベースを作成できる、画像診断や圃場の地図で営農指導を効率化できる、などの特徴があります、
栽培ナビの価格は、初期費用10万円、月額1980円/1 IDで、基本パッケージは1契約30 IDから。
農業ICTソリューション/アグリネット
NECとネポンが共同運営する「農業ICTソリューション(ネポンブランド名:アグリネット)」。
情報を収集・見える化・分析することで最適化や制御を行う次世代農業経営を目指すというもので、生産支援(営農支援、圃場監視、圃場制御、GAPマネジメント)を中心に、農業経営支援、流通支援(需給マッチング、直売所支援)などの機能があります。

主な特徴として、温室用温風暖房機の国内トップメーカー「ネポン」製のハウス内機器とクラウドを連携し、ハウス内の状態を遠隔監視、自動制御することができます。
GeoMation Farm
日立ソーリューションズが運営する「GeoMation Farm」。
得意のGIS(地理情報システム)関連技術により、農業現場における様々な情報を、地図と関連付けてわかりやすく管理・活用することができます。
地図と農地情報をひとつにすることで、情報のつながりをビジュアルに把握することができる「圃場・土壌情報管理システム」を中核に、農地の有効利用、肥培管理、営農計画の立案、生産性の診断、営農指導などを効率的に行うさまざまなアプリケーションが用意されています。
また、日立の農業ITソリューションとして、農業情報管理システム「GeoMation Farm」に加え、農業版 販売生産連携プラットフォーム「AgriSUITE」、植物工場生産支援クラウドサービスなどが提供されています。
KSAS(クボタスマートアグリシステム)
クボタが運営する「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」。
農業機械に最先端技術とICT(情報通信技術)を融合させたクラウドサービスで、農業経営の見える化に加え、クボタの農機と連携することで、品質・収量の向上とコスト削減をサポートします。
サービスには、基本コースと本格コースがあり、基本コースでは農業経営を見える化するクラウドサービスを、本格コースでは農業機械との連動に対応しています。
コンバインに搭載された食味・収量測定センサで収穫と同時に食味・水分・収量データを収集、施肥量電動調節ユニットで圃場ごとに計画した施肥量を自動散布するなど、まさに次世代スマート農業を実現することができます。
利用料金は、基本コース月額3500円〜、本格コース月額6500円〜となっています。
豊作計画
トヨタが運営する、米生産農業法人向けのクラウドサービス「豊作計画」。
トヨタ生産方式の哲学を農業にも活かすために開発されたもので、広範囲に存在した圃場を集約的に管理し、複数の作業者が効率的に作業できる工程を自動で作成してくれます。
この作業計画は、現場へ向かう作業者のスマホへ配信され、作業の進捗状況の共有・集中管理ができ、作業日報やレポートの自動生成なども可能です。
また、農作業だけでなく、乾燥や精米のプロセス、品種、エリア、肥料、天候、工数、乾燥条件など、さまざまなデータの収集・分析を行うこともできます。
現在は、米、麦、大豆にのみ対応ですが、将来的には対応作物を広げる予定とのこと。
アグリノート
ウォーターセルが運営する「アグリノート」。
Googleマップ・航空写真を利用したインターネット上の農業日誌・圃場管理ツールです。
航空写真により正確な場所の指示と記録が可能となり、主な機能には、圃場管理、作業記録、トレーサビリティ、圃場毎の集計、農薬・肥料DB、生育記録のグラフ化などがあります。
利用料金は年額39800円で、最大6ヶ月無料でお試し可能。
フェースファーム(facefarm)
ソリマチが運営する「フェースファーム(facefarm)」。
各圃場の農作業記録や生育記録を、Googleマップの衛星写真で確認しながらその場で入力、自動で集計することができます。

フェースファームは、日本GAP協会の監修・指導のもと開発されており、JGAPの管理点と適合基準に対応しているのも特徴。
また、ヤンマーの「スマートアシスト」と連携し、位置情報を取り込んで機械稼働日誌を自動記録することもできます。
利用料金は年額3万円〜ですが、各種会員割引やヤンマーからの紹介割引などもあります。
e-kakashi
PSソリューションズが運営する、農業IoTソリューション「e-kakashi」。
農作物の栽培に関する、センサーデータの集約や可視化を手軽に始めることができます。
e-kakashiは、田んぼや畑に設置するセンサーノード(子機)、子機のデータをクラウドに送信するゲートウェイ(親機)、収集したデータの分析結果をPCやスマホで見るためのWebアプリケーションで構成されます。
センサーには、温湿度、日射、土壌水分/EC、多点温度に対応したものがあり、今後ラインアップを拡充する予定とのこと。
利用料金は機器代金749,600円〜、月額利用料7,980円〜となっています。
みどりクラウド
株式会社セラクが運営する、農業IoTサービス「みどりクラウド」。
自動的に圃場の環境を計測、記録し、そのデータを離れた所からいつでも確認することができる圃場モニタリングシステムです。
比較的低価格で導入することができるため、費用対効果の高いサービスとして注目を集めています。
また、新たに発売されたデータ収集端末の「みどりボックスPRO」は、防塵防水機能(IP65相当)やセンサーの拡張機能が強化されており、露地栽培を中心とした大規模な生産施設にも使えるようになりました。
利用料金は基本構成128,000円、月額利用料2,260円となっています。(みどりボックスPRO)
Agrion(アグリオン)
TrexEdgeが運営する、クラウド型農業支援サービス「Agrion(アグリオン)」。
農作業の活動を記録&見える化することで作業効率の改善を図る「Agrion農業日誌」、伝票作成や注文・売上管理などを効率化する「Agrion販売管理」の2つのサービスがあります。
Agrion農業日誌は、作業記録だけでなく、写真やコメントを投稿してメンバーと情報共有できるコミュニケーションツールとしても活用可能。
Agrion販売管理は、後述のクラウド会計「freee(フリー)」とデータ連携可能で、受注・販売から会計までの一連の業務がスムーズになります。
利用料金は、農業日誌が月額800円(無料プランあり)、販売管理が月額1980円(パーソナル)、月額9800円(ベーシック)となっています。
畑らく日記
イーエスケイが運営する「畑らく日記」。
簡単に栽培記録・農作業日誌を記録することができる、無料で使えるスマホアプリです。
日々の作業や作物の状態、数量、単位などを記録・閲覧することができ、音声入力機能も付いているので作業の合間でも入力しやすくなっています。また、入力したデータはエクセルなどに抽出可能。
主に小規模農家、新規就農者、趣味で家庭菜園やガーデニングなどを行うライトユーザー向けですが、グループでの利用、出荷業務、トレーサビリティなどにも対応したプロ向けプランもあります。
利用料金は一般向けは無料、Pro版は年額12000円となっています。
また、趣味で行う家庭菜園やガーデニングであれば、ちょっとした栽培記録に加え、他のユーザーとの交流も楽しめる「家庭菜園SNS」もオススメです。
freee(フリー)
シェアNo.1を誇るクラウド会計サービス「freee(フリー)」。
経理作業に掛かる時間を大幅に削減できるクラウド会計サービスですが、その中でもfreeeは農業の確定申告に対応しています。(農業所得用の特殊な勘定科目、決算書作成など)

また、先に紹介した「Agrion(アグリオン)」と連携することで、販売管理の効率化を図ることもできます。
私も個人事業でクラウド会計サービスを利用しているのですが、会計知識がなくても一人でできる上に、記帳作業が楽チン、計算が合っているか心配しなくても記帳データに合わせてビシッと決算書類を作成してくれるので、欠かせない存在となっています。
利用料金は、個人事業主向け:月額1980円、法人向け:月額2380円〜となっています。