マルチシートの種類と効果・失敗しない張り方のポイント

マルチシートの種類とマルチの張り方

畝の表面をシートで覆う「マルチング」。地温の調節や雑草の抑制など多くの効果があるため、家庭菜園で広く利用されています。

この記事では、マルチシートの種類ごとの特徴と効果、そして失敗しないきれいな張り方のポイントを解説します。

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マルチングとは

畑の畝(うね)をシート状の資材で覆うことを「マルチング」または「マルチ栽培」といいます。

昔は稲わらや刈草なども使われましたが、現在では手軽で高機能なポリフィルム製の「マルチシート」を使うのが一般的です。

多くの農家や家庭菜園で当たり前のように使われているマルチングですが、それにはたくさんの嬉しい効果があるからです。

マルチングの目的と効果

マルチングには、主に次の5つの効果があります。

  • 地温のコントロール
    マルチシートは、太陽の光を利用して地温を上げたり、逆に地温の上がりすぎを抑えたりできます。例えば、まだ肌寒い春先に黒マルチを使えば地温が確保でき、夏野菜の苗の活着(根付き)が格段に良くなります。
  • 雑草の抑制
    光を通さない黒色のマルチなどは、雑草の光合成を妨げて生えてくるのを防ぎます。これにより、夏の大変な草むしりの手間から解放されます。マルチ栽培における最大のメリットの一つです。
  • 乾燥と肥料流出の防止
    シートが土の表面を覆うため、水分の蒸発が抑えられて土の適度な湿度が保たれます。水やりの回数を減らせるうえ、大雨が降っても土の中の肥料が流れ出てしまうのを防いでくれます。
  • 病気予防と品質向上
    雨が降った際の泥はねを防ぎ、土の中にいる病原菌が葉や実に付着する病気を予防します(物理的防除)。また、果実や葉が直接土に触れないため、作物をきれいな状態で収穫できるメリットもあります。
  • 土壌構造の保護
    雨風が直接土に当たらないため、土の表面が固くなったり、強い雨で土が流されたりするのを防ぎます。作物の生育に重要な、ふかふかの土(団粒構造)が長く維持されます。

イモ類にも有効なマルチ栽培

マルチ栽培はトマトやナスなどの夏野菜でよく使われますが、ジャガイモなどイモ類の栽培でも非常に有効です。

ジャガイモのマルチ栽培
ジャガイモのマルチ栽培

例えばジャガイモは、育ったイモが地上に出て光に当たると緑化してしまうため、成長に合わせて土を盛る「土寄せ」という作業が欠かせません。 しかし、最初に黒マルチを張っておけば、イモが地上に露出するのを防げるため、この手間のかかる土寄せ作業が不要になります

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マルチシートの種類と選び方

マルチシートは色、サイズ、素材によって様々な種類に分類されます。それぞれの特徴を理解し、目的に合った製品を選ぶことが重要です。

色別の特徴

マルチシートの色によって、地温や雑草、害虫への効果が大きく異なります。

マルチシートの種類(色)による特徴の比較図

透明マルチ

最も高い地温上昇効果で、低温期の生育を促進します。夏場は地温が上がりすぎる点に注意が必要ですが、高温を利用した太陽熱土壌消毒にも活用できます。ただし、光を通すため、雑草の抑制は抑制できません。

黒色マルチ

光を遮断するため、雑草抑制効果が非常に高いのが特徴。地温上昇効果も適度にあり、最も広く使われている万能タイプです。真夏はフィルム自体が高温になりやすいので、作物の葉焼けに注意しましょう。

シルバーマルチ

表面が光を強く反射し、地温の上昇を抑えます。夏場の高温対策に有効です。また、キラキラした光を嫌うアブラムシアザミウマなどの害虫を遠ざける防虫効果もあります。

グリーンマルチ

地温上昇効果と雑草抑制効果を両立させたバランス型。透明と黒のちょうど中間の性能で、「地温も上げたいけど、雑草もある程度抑えたい」という場面で活躍します。

白黒マルチ

表面の白色が太陽光を強く反射して地温の上昇を抑え、裏面の黒色が光を遮断して雑草の発生も防ぎます。夏の高温対策と雑草対策を同時に高いレベルで実現できる、非常に優れたマルチです。

銀黒マルチ

表面の銀色が太陽光を反射して地温の上昇を抑えるとともに、その光を嫌うアブラムシなどの害虫を遠ざけます。裏面の黒色が光を遮断して雑草の発生を防ぎます。夏の高温対策、雑草対策、そして害虫対策を同時に実現できる、非常に高機能なマルチです。

MEMO

白黒マルチと銀黒マルチの使い分け:どちらも地温上昇を抑える効果が高いですが、一般的に白黒マルチの方がより抑制効果が高いとされています。一方で、防虫効果を期待するなら銀黒マルチが有利です。

サイズの選び方(幅・厚み)

マルチシートは幅95cm、135cm、150cmなどが一般的です。畝の上面だけでなく側面も覆う必要があるため、「作りたい畝の幅 + 30〜40cm」を目安に選びましょう。

畝幅60cm → 幅95cmのマルチ、畝幅90cm → 幅135cmのマルチ

厚み

厚みは0.02mmが標準ですが、より丈夫な0.03mmなども市販されています。厚いほど破れにくく、保温性や耐久性が高まりますが、価格も上がります。繰り返し使う場合や、より高い効果を求める方におすすめです。

安価すぎるマルチは薄くて破れやすく、特に片付ける際に細かくちぎれてしまい、畑にゴミが残る原因になります。長期的に見ると、信頼できるメーカーの丈夫な製品を選ぶ方が、作業効率も良く安心です。

他にもこんなマルチ資材

生分解性マルチ

生分解性マルチとは、畑の土の中にいる微生物が作り出す酵素の力で、最終的に水と二酸化炭素に分解されるように設計されたマルチシートです。

栽培が終わった後にシートを剥がして片付ける手間が不要になるのが、最大のメリット。そのままトラクターなどで土にすき込むことができるため、労力を大幅に削減できます。

敷きわらマルチ

マクワウリの畝に敷きワラマルチ

稲わらや麦わら、刈草などを畝の上に敷く、昔ながらの方法です。ポリフィルムとほぼ同様の効果に加え、有機物ならではの多くのメリットがあります。

  • 優れた湿度・温度調整
    わらが水分を吸ったり吐いたりするため、土壌の湿度が安定します。また、空気の層が断熱材となり、温度の急激な変化を和らげます。
  • 土が豊かになる
    わらの隙間が微生物や益虫の住処となり、病害虫の天敵を増やします。最終的にわらは分解され、土の栄養分(腐植)となります。
  • 作物の安定
    ウリ科など地面を這う野菜のツルが、わらに絡みついて固定されるため、風で転がりにくくなります。

敷わらマルチを利用する際は、向きは畝と平行に、下の土が少し見えるくらいに薄く敷くのがコツです。

畝と直角に敷くと、雨が降っても水がワラを伝って通路の方に流れてしまいます。また、厚すぎると、水が十分に染み込まない他、ワラと土が接触する部分がいつまでも湿っているため、土の表面に細根が広がってしまい、乾燥したときに根が傷んで生育が悪くなってしまいます。

また、わらを敷く手間を省ける「わらイラズ」のような、わらを模したシートも販売されており、手軽でおすすめです。

マルチシートの張り方

マルチシートの張り方は、次のような流れになります。

MEMO

マルチングは、土作りを済ませ、畝を立てた後に行います。畝立て後すぐに敷くと、土が沈んで緩んでしまうため、数日置いてから行いましょう。

準備

まず、畝のサイズに合ったマルチシートとマルチ押さえを準備します。

マルチシートとマルチ押さえ

「マルチ押さえ」は、マルチシートが風でめくれたり、飛ばされたりしないよう、裾を留めておく道具です。いろいろな種類が販売されています。

また、マルチの保温効果や保湿効果が十分に発揮できるよう、マルチシートは畝の表面にピッタリと張ることが大切です。

そのため、畝の表面と側面を丁寧にならしておきましょう。

レーキで畝を整える

マルチシートを張る

畝の周囲にマルチシートの裾を埋めて押さえるための溝を掘ります。

畝のまわりにマルチシートを埋めるための溝を掘る

畝の角にマルチ押さえを挿して仮止めし、マルチシートを畝の端まで伸ばして畝全体を覆います。

支柱を使ってマルチシートを広げる
MEMO

マルチシートを広げる際は、ロールを転がして広げればいいのですが、ロールに支柱を通して引っ張ると楽に広げられます。

尚、マルチシートが左右にずれないよう、中心線を畝の中心に合わせるようにしましょう。

マルチシートを中心線に合わせる

畝の端まで広げたら、溝に埋める余裕をもたせてマルチシートを切ります。

マルチシートをカッターで切る

シートを引っ張ってピンと張りながら、終点側もマルチ抑えで仮止め。ばたつき防止に重しを載せておきます。

マルチシートを仮止め

マルチシートの裾を溝に入れ、土寄せして押さえます。(シートがたるまないよう、足で踏んで引っ張りながら土を掛けます。)

マルチシートの裾を土で抑える

最後に、土寄せした部分を足で踏み固めたら、マルチ張りの完了です。

マルチシート張りの完成

マルチに穴を開ける方法

マルチ栽培では、作付けする前に、マルチシートに一定間隔で穴をあける必要があります。

ハサミやカッターなどを利用してもいいのですが、穴あけ専用の道具を使うと便利です。

穴を開ける場所に「マルチ穴あけカッター」を当て、ギュッと押すと簡単に植え穴をあけることができます。

また、あらかじめ一定の間隔(株間)で植え穴が空いているマルチシートもあります。

自分で穴を開ける手間が一切不要になり、作業時間を大幅に短縮できます。株間が均一になるので、見た目もプロのように綺麗に仕上がります。

育てたい野菜に合った株間・穴径の製品を選ぶ必要があるので、購入時はよく確認しましょう。